Veliq Works
ホーム/賃金の教科書

賃金統計の読み方 — 5つの原則

賃金の数字は、そこら中で引用されます。そして、そのかなりの割合が誤って引用されています。誤りのほとんどは計算ミスではなく、読み方の問題です。

ANSWER

賃金統計を読み違えないための原則は5つ。①平均を分布の代表としない ②年収と混同しない ③軸を掛け合わせない ④相関を因果としない ⑤方法を開示する。本サイトはこの5つを自らの編集方針としても採用しています。

原則1|平均を、分布の代表としない

令和7(2025)年の一般労働者の所定内給与額は、平均340.6千円、中央値296.6千円。差は44.0千円です。

賃金分布は右に裾を引きます。少数の高所得者が平均を押し上げる。結果として過半数の労働者は平均を下回ります。

「平均以下」という自己認識のかなりの部分は、この統計的な錯覚です。300千円の人は平均を40千円下回りますが、分布では中央よりわずかに上にいます。

使い分け:自分の位置を知るなら中央値と分位数。国全体の賃金総額の動きを見るなら平均値。目的が違います。

原則2|年収と、混同しない

本調査の「賃金」は所定内給与額です。含まれないもの——

したがって「340.6千円 × 12 = 年収409万円」という換算は誤りです。賞与が抜けているため、実際の年収はこれより高い。逆に税・社会保険料の控除前なので、手取りはこれより低い。

「日本の平均年収」を知りたいなら、国税庁の民間給与実態統計調査が一次資料です。調査が違えば、答えも違います。

原則3|軸を、掛け合わせない

最も多く、最も見えにくい誤りがこれです。

「大学卒の平均は396.3千円」「情報通信業の平均は406.0千円」——この2つから「大学卒の情報通信業は◯◯千円」を推定することはできません。

各軸の平均は、それぞれ他の属性をすべて含んだ集計です。大学卒の396.3千円には、あらゆる産業・企業規模・年齢・役職が混ざっている。産業の406.0千円にも、あらゆる学歴が混ざっている。

掛け合わせた推定値は、原典にない数字を作る行為です。クロス集計が必要なら、e-Statの原表(職種別・都道府県別の詳細表)を参照してください。

原則4|相関を、因果としない

「大学院卒は高校卒の1.74倍」——これは事実です。しかし「大学院に行けば1.74倍になる」は、事実ではありません。

この統計から判別できないこと:

同じことが、企業規模にも、役職にも、産業にも言えます。役職プレミアム(部長級2.05倍)には、年齢と勤続の効果が丸ごと含まれています(部長級の平均は53.1歳・勤続22.6年)。

統計が言えるのは「どの集団の賃金が、どの集団より高いか」まで。「なぜ高いか」は、別の分析を要します。

原則5|方法を、開示する

公表値をそのまま引くだけなら、方法の開示は要りません。しかし何かを計算した瞬間、その数字の責任は計算した側に移ります。

本サイトが独自に算出しているのは、次の3種類だけです。

そして、これらはすべて各ページの「Method」欄で開示しています。

特にパーセンタイルは、原典で検算できます。同じ補間法で公表分位数を逆算すると、中央値296.6千円 → 49.97パーセンタイル、第1・四分位数238.2千円 → 25.09、第9・十分位数527.3千円 → 89.77。公表値(50 / 25 / 90)とほぼ一致します。検算できない計算は、公開しません。

やらないこと

本サイトが意図的にやらないことを、先に書いておきます。

編集部の判断この5原則は、本サイトの編集方針そのものです。数字を整えることと、数字を作ることは違います。前者はやる。後者はやらない。境界が曖昧になったときは、やらない側に倒します。

最終更新:2026年7月12日 / 出典:

免責 — 本サイトは公的統計を整理・可視化する情報サイトであり、個別の賃金・処遇・転職・労務に関する助言を行うものではありません。掲載する数値は集団の統計であって、特定の個人や企業の賃金の妥当性を判定するものではありません。 賃金は「所定内給与額」であり、残業代・賞与を含みません。年収ではありません。

賃金統計の読み方
5つの原則 — 本サイトの編集方針でもあります
レポートへ